病態
HTLV-1関連脊髄症(HAM)は、ヒトT細胞白血病ウイルスタイプ1(HTLV-1)によって引き起こされる神経疾患です。このウイルスはTリンパ球に感染し、慢性的な免疫応答の異常を引き起こします。これが中枢神経系、特に脊髄に炎症と損傷をもたらし、歩行障害や排尿障害などの様々な神経学的症状を引き起こす原因となります。
疫学
HAMは世界中で報告されていますが、HTLV-1感染が高頻度で見られる地域、例えば日本、カリブ海諸国、南アメリカの一部でより一般的です。成人における感染者の約0.25%がHAMを発症すると推定されています。男女比や年齢分布には地域差がありますが、一般的には中高年の女性に多く見られます。
原因
HAMの主な原因はHTLV-1ウイルスの感染です。このウイルスは主に母子間(母乳を通じて)、性接触、臓器移植によって伝播します。以前は輸血でも感染していましたが、1986年以降は輸血による感染はありません。HTLV-1は感染者の体内で潜伏し続け、特定の免疫応答の異常を引き起こすことが、HAMの発症につながります。
症状
HAMの症状は、脊髄の損傷により多岐にわたります。代表的な症状には、下肢の筋力低下や感覚異常(特に足のしびれ)、歩行障害、尿や便の排泄障害などがあります。これらの症状は徐々に進行し、日常生活に影響を及ぼすこともあります。また場合によっては車椅子を必要とするほどの重度の障害を引き起こすこともあります。
治療薬
現在、HAMを根治する治療薬は存在しませんが、症状を緩和し、進行を遅らせるための治療が行われています。使用される薬剤には、ステロイド剤、インターフェロン・アルファ、免疫調整薬などがあります。
治療方法
HAMの治療は、病気の重症度や症状に応じて個別に行われます。リハビリテーションは重要な役割を果たし、患者の筋力の維持や改善、日常生活での機能的な能力と生活の質を向上させることを目指します。適切な運動療法は筋萎縮の予防やバランスの向上に役立ちます。2023年10月、HAL医療用下肢タイプ(医療用HAL®)を用いたリハビリテーションがHAMに保険適用となりました。また、患者様やその家族への教育とサポートも非常に重要です。患者や家族が病気の性質、治療の選択肢、日常生活での対応策について理解することで、患者の生活の質の向上に繋がります。
聖マリアンナ医科大学 脳神経内科 山野嘉久