装着型サイボーグ“HAL”

遠位型ミオパチー

概要

筋疾患は英語ではミオパチーといわれます。ミオパチーの分類には様々な方法があり、原因では遺伝性と非遺伝性があります。診断のために筋を切除することを筋生検と言いますが、その切除した筋を顕微鏡で観察した筋病理所見で分類もできます。それには筋の細胞である筋線維の壊死、再生の目立つジストロフィーと目立たないミオパチーに分けられます。このようにミオパチーという用語は「筋疾患」の意味の場合と筋病理での「壊死、再生の目立たないもの」としてのミオパチーと2種類の使い方があり注意を要します。通常筋疾患は体幹に近いところの筋の障害が早くからおこるため近位筋優位といわれますが、なかには体幹からみて肘や膝より遠位筋優位の遠位型ミオパチーという分類があります。指定難病でいう遠位型ミオパチーは遺伝性の遠位型ミオパチーをさします。病理学的には壊死、再生の目立たないものをミオパチーといいますが、ジストロフィーの病理をしめす三好型ミオパチーも遠位型ミオパチーに含まれます。そのため遠位型ミオパチーという場合のミオパチーは筋疾患の同義と考えられます。

 

分類

指定難病では診断分類を三好型ミオパチー、縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー、眼咽頭遠位型ミオパチー、その他の遠位型ミオパチーに細分類しています。

 

原因

三好型ミオパチーはジスフェルリン遺伝子の変異、縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーはGNE遺伝子変異、眼咽頭遠位型ミオパチーはLRP12遺伝子、GIPC1遺伝子やNOTCH2NLC遺伝子の変異が原因となります。最近では原因遺伝子ごとに疾患を分類する傾向にあり、原因遺伝子が複数ある眼咽頭遠位型ミオパチーは単一の疾患とはいえないと考えることもできます。

 

症状

三好型ミオパチーは主に10歳代後半から30歳代後半に多く発症する傾向があります。初めに下腿屈筋群、すなわちふくらはぎの筋から発症するため、多くの方がつま先立ちができなくなることで気づきます。縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーは15歳から40歳までに発症することが多い傾向にあります。前脛骨筋、すなわちすねの筋から発症するため、つま先が上がらず引っかかることで気づかれます。眼咽頭遠位型ミオパチーは眼瞼下垂、すなわちまぶたが下がる、や前脛骨筋の筋力低下を示し、目を動かす筋である外眼筋麻痺や嚥下障害、発声しづらくなる構音障害を呈することが多く見られます。どの疾患も程度の差はあるものの徐々に筋力低下の範囲が広がっていったり、筋力低下の度合いが強くなったりといわゆる進行していきます。

 

治療

根治療法は現在研究中です。現在できる治療としてリハビリテーションは大事です。四肢、体幹の筋力の低下によりしづらくなった動作を助けること、これには適切な杖や車いすなどの作製も含まれます。筋力が低下すると関節の動く範囲が狭まり固くなってしまう拘縮に対するもの。呼吸障害が進行すると咳の力が弱まり痰を出しにくくなり肺炎をおこしやすくなるため排痰を補助するもの。嚥下障害が進行した際は、食事形態の工夫により誤嚥を防ぐことが行われ、嚥下や発声に対するもの。など多彩なリハビリテーションが行われます。最近、歩行の改善、維持を目的とするHALが開発され遠位型ミオパチーも保険診療で行なうことができます。呼吸障害が進行した際には人工呼吸器での補助呼吸も行うことができ筋疾患では気管切開をしない顔に当てるマスク式の非侵襲的人工呼吸が広く行われています。嚥下障害が進行し、十分な栄養量がとれない場合や誤嚥のため肺炎を頻回におこすなどの際は、胃ろうなどの経管栄養も考慮されます。


 

解説:髙橋 俊明

独立行政法人国立病院機構仙台西多賀病院 内科系診療部長

診療科 脳神経内科